音質向上ツールREWの使い方


REW(Room Equalization Wizard)は先日紹介したDRCDesignerやRoomCorrection同様、無料で使えるDigital Room Correctionのツールだ。

正直、自分でもツールの全てを把握できていないのだが、日本語で書かれたREWの解説を見かけないので、今年のゴールデンウイークの成果として(?)、とりあえずREWでDRCDesigner相当の補正を行う方法を書いてみる。

なお、REWの詳細なマニュアルは以下に掲載されている。

http://www.hometheatershack.com/roomeq/REWV5_help.pdf

ちなみにREWはJavaで書かれており、WindowsでもMacでも利用できる。
ユーザーインターフェースはあまり親切ではないが、機能はなかなか豊富だ。

初心者向けにはDRCDesignerのほうがおすすめだが、補正フィルタを細かく設定したい場合には、REWのほうが便利だろう。

REWのダウンロード

REWはホーム・シアター・シャック(Home Theater Shack)というオンラインコミュニティで配布されていて、コミュニティに参加すれば無料でダウンロードできる。

REW – Room EQ Wizard Home Page

コミュニティに参加するには、Home Theather Shackへの登録が必要だ。
登録といっても、普通のオンラインサービスと同様にメールアドレス、ユーザID、パスワードを登録するだけだ。
登録ページはこちら。

Home Theater Shack – ZERO TOLERANCE FORUM RULES and TERMS OF USE

登録は、画像による認証で「虎の画像をクリックしてください」みたいなのがあるし、登録画面もシンプルではないので、英語が全く解らないとちょっとキビシイかもしれない。

ログインすると、REWをダウンロードできるようになる。
ダウンロードするバージョンだが、5.10betaからASIOに対応しているので、Windowsユーザはベータ版を使うのが良いだろう。
ベータ版は以下からダウンロードできる。

V5.01 Beta Downloads – ASIO Support – Home Theater Forum and Systems – HomeTheaterShack.com

以下の説明では、最新版のv5.10 Beta 17(2013/5/4版)を使う。

REWの初期設定

インストーラ版をインストールした場合は、ショートカットもインストールされる。
ZIP版の場合は、解凍してできるフォルダの中のRoomEQ_Wizard_obf.jarをダブルクリックするとREWが起動する。

起動した初期画面はこうなる。

味も素っ気もない画面だ。
左の5つのアイコンの内、「Measure」が測定を行うボタンで、その隣の3つは測定結果のデータを管理するするボタンだ。

Infoは測定データに関する情報の表示。

中央に並んでいるボタンは様々なツール類。

右端のボタンが設定だ。

まずは「Preferences」ボタンを押して、測定に利用するオーディオインタフェースを選ぶ。
左上のDriversのところで、Javaが通常のドライバになっているが、ASIOを選択することもできる。
オーディオインタフェースの名称の日本語は文字化けするが、勘で何とかなるだろう。

Calibrationのところでは、オーディオインタフェースの校正を行える。
具体的には、LINE INをLINE OUTに直結し、Calibrateボタンを押し、後はウイザード形式でNextボタンを押していくと測定が行われる。
入力レベルが-12dB近辺になるように、入力ゲインを調節する。

上はTASCAM US200で測定した例だ。
以前書いたように高域や低域では感度が鈍っている。

ただし、DRCという用途を考えた場合には、20~20KHzの範囲で感度が1dB以内の変動であれば、全く無視して問題ない。
大抵のサウンドカードは、実際にはこの範囲に収まっているだろうと思う。

音量の校正も必要になる。
これは、マイクが拾った音量の絶対値を求めるためのものだ。
そのため、音量計など実際の音量を計測する手段が別に必要になる。

だが「普通に音楽を聴く音量」=70dB程度、ということで適当な数字を入力してもかまわない。
不正確な数値を入れた場合には、測定値の絶対値がそのぶん不正確になるが、DRCに使えないことはない。

まず、メイン画面の「SPL Meter」をクリックし、表示されたウインドウの「Calibrate」ボタンをクリックする。
「Choose signal source」は「Use REW speaker cal signal」を選択。

するとスピーカーからノイズが出るので、マイクの位置で音量計で測定した値(音量計がなければ、65~70くらいの適当な値)をウインドウに入力し、「Finished」ボタンを押す。

以上で最低限必要な設定は終わりだ。

REWでの音響特性測定

REWでの測定も、DRCDesigner同様にスイープ信号をスピーカーから流し、マイクで測定する。
測定にあたっては三脚などでマイクを設置するほうがよい。
マイクスタンドの代わりにカメラ三脚を使う方法については、以前の記事を参照のこと。

測定は、まずメインウインドウの「Measure」ボタンをクリックする。
そして、測定する周波数の範囲・音量・サンプルの長さ・回数を設定する。

REWはウーファー用の設定値がデフォルトになっているのか、最初は上限周波数が200Hzとかになっているが、通常のスピーカーであれば20KHz(20,000Hz)くらいは必要だろう。
下限は0になっているが、20~30Hzくらいからで十分だ。

音量は、「Check Levels」ボタンでテスト用のノイズを流して、音量が小さいようであれば大きくする。

Lengthは周波数あたりのサンプル数で、大きい値にすると測定時間が長くなり、PCのメモリも多く必要になる。
総測定時間は右端にTotal Timeとして表示されている。

準備が整ったら「Start Measuring」をクリックすると測定が始まる。

なお、右スピーカーと左スピーカーを測定する必要があるが、REWはこの切り替えを自動では行ってくれないようだ。
ASIOドライバの場合、Prefrencesウインドウで出力チャネルを選ぶこともできるが、それよりもサウンドカードからアンプへのケーブルを抜き差しして切り替えるほうが手っ取り早いだろう。
複数回測定する場合は上記の手順を繰り返せばよい。

REWでは1セットで20回分までの測定データを扱うことができるので、1回毎に保存する必要はない。

測定結果の閲覧

測定を行うと、メインウインドウ左側に測定結果のアイコンが表示される。

メインウインドウ右側のタブで、測定結果を様々に表示できる。
ちなみに測定対象は、何度も紹介している私のPCオーディオ環境だ。

なお、それぞれのタブについて、タブの右側の4つのボタンで、以下のように表示設定を変更できる。

Scrollbars: スクロールバー表示のオンオフ
Freq.Axis: 周波数軸を対数表示にするか線形表示にするかの選択
Limits: グラフの縦軸・横軸それぞれについて、表示範囲の設定
Controls: それぞれのタブに固有のカスタマイズ項目の表示

また、グラフ左肩のカメラのアイコンをクリックすると、グラフ部分だけを画像ファイルとして保存できる。

次の図はこれまでにも何度か紹介している、PIEGA TS3の周波数特性(音圧の周波数特性)のグラフ。
ここでは位相の表示も可能だ。

参考までに、他のタブで見られるグラフもいくつか紹介する。
歪み成分のグラフ。
第2次~第10次までの高調波成分およびTHDを表示する。

群遅延(Group Delay)のグラフ。

ウオーターフォールのグラフ。
最初にGenerateボタンをクリックして描画させる必要がある。

なお、これらのタブでは特定の測定データのグラフしか閲覧できないが、メイン画面上部にある「Overlays」ボタンで呼び出したウインドウでは、複数の測定データのグラフを重ね合わせて表示できる。

補正用フィルタの作成

測定した周波数特性のデータから、補正用のフィルタを生成するには、メインウインドウ上部の「EQ」アイコンをクリックする。
すると、次のようなウインドウが開く。

左側には周波数特性と、フィルタの特性、フィルタをかけた後の周波数特性(Predicted)が表示される。

ここでLimitsアイコン(上下左右矢印のアイコン)をクリックして、横軸を20~20,000Hzにしておくとよい。

周波数特性のグラフの上の「EQ Fileters」をクリックすると、フィルタの一覧が表示される。
初期状態ではフィルタは存在しない状態になっている。

このウインドウで、手作業でローパスフィルタ(LP)、ハイパスフィルタ(HP)、ピーキングフィルタ(PK)など様々なフィルタを組み合わせ、強さや周波数なども自由に設計することもできる。

しかし、ここではREWにお任せでフィルタを生成させる方法を紹介する。

EQ Filtersのウインドウは閉じて、EQウインドウの右側部分で生成するフィルタの設定を行う。
まず、「Equaliser」グループではイコライザにGenericを指定する。

REWは既製品のイコライザの設定を生成することもできるようで、ここでリストアップされているのはイコライザの製品型番だ。

たとえばDSP1124Pはべリンガーの1万円程度のパラメトリックイコライザだが、MIDI信号で設定を行えるので、REWから直接設定を書き込めるらしい。また、機器によって利用できるフィルタが異なるので、ここで選択した機器に応じて、EQ Filtersウインドウに現れるフィルタ候補が変化する。

今回は補正フィルタのインパルス応答を得ることが目的なので、Generic(標準)を選択する。

次に、「Target Settings」グループでは、まずSpeakerをNoneにする。
この設定は、スピーカーの用途に合わせたフィルタは特に使用しないという設定になる。
他の選択、例えばサブウーファーを選択した場合には、サブウーファーは低音しか再生しないのでローパスフィルターを使用することになる。

「LF Rise Slope」と「HF Fall Slope」は0にする。
これは完全にフラットな特性ということだ。

「Target Level」は、左側の周波数特性のグラフを眺めて、スパッと水平に切りたいレベルがどのあたりか、で決める。
あまり小さくしすぎると、音量が小さくなってしまう。
「Set Target Level」をクリックすると、適切な値に自動設定してくれるようだ。

最後に「Filter Tasks」グループでは、Match Rangeを40Hz~10,000Hzに指定。
ここは、フィルタで制御したい周波数帯を指定するのだが、上限は10KHzより上にできないようだ。

「Individual Max Boost」と「Flatness Target」はどちらも補正の強さに影響するようだが、「Individual Max Boost」は上限18dBくらいまで、「Flatness Target」は1~6dBの範囲だがなるべく大き目の値にしておくのが良いのではないかと思う。

以上を設定したら、文字列「Match Response to Target」をクリックする。
これは文字列だがボタンなのである。(わかりにくい…)

クリックすると、フィルタが自動生成される。
生成されたフィルタは「EQ Filters」をクリックすると確認でき、編集もできる。

左側の特性グラフで、「Predicted」を表示させると、元の特性がどのように補正されるかを確認できる。
以上でフィルタの作成は完了。
パラメータをいじってフィルタを作り直すことは、いつでも可能だ。

補正用フィルタのインパルス応答の出力

作成したフィルタは、メニューから

File → Export → Filters Impulse Response as WAV

でWAVファイルとして出力できる。

左右それぞれのフィルタを作ったなら、Stereoを選択し、LeftとRightにそれぞれ相当する測定データ名を指定する。
ビット数は32bit、Normalise samplesはチェックを入れる。

これで出力した補正用フィルタのWAVファイルは、DRCDesignerのインパルスレスポンスと同様に再生ソフトのコンボリューション用データとして設定できる。

foobar2000やJRiver Meida Centerでの利用法は、先日書いたDRCDesignerの場合と同じなので、そちらの記事を参照してほしい。
DRCで機器・部屋の音響特性の補正をしてみる(4)|iPod shuffle研究所

コメント

  1. ずきん より:

    非常に参考になりました。

  2. 勇者カズ坊★ より:

    ずきんさん
    ありがとうございます。
    補正はもっと知られるべきと思ってます。
    変なケーブル買うより100万倍効果がありますので・・・

  3. ずきん より:

    こちらこそありがとうございます。
    ほんとにもっと効果を知ってほしいと思いました。
    ブログでも紹介させてもらいました。

  4. フジム より:

    マルチウェイユニットの場合、各ユニットのタイムアライメントも重要になると思いますが、このREWにはその測定機能もあるのでしょうか?

  5. 勇者カズ坊★ より:

    フジムさん
    興味深いご質問ですね。パイオニアのフルバンド・フェイズコントロールのようなイメージでしょうか。
    記憶の限りでは、そのような機能はなかったと思います。
    群遅延は測定できますので、スピーカーユニットごとの測定は(測定したくないスピーカーの結線を切れば)できそうな気もします。
    ただ、そこからマルチウェイユニット全体の補正用フィルタを作るのは難しそうですね。

  6. フジム より:

    勇者カズ坊さま
    LARSAに どうも 2,400円を支払う気になれなくて、、、。
    ありがとうございました。

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