良い音って?

昨年末に買って、まだレビューを書いていないものに、中華デジタルアンプやUSB DACがある。
そのレビューを書く前に「良い音」について書いておこうと思う。
というのも、スピーカーの違いやヘッドホンの違いに比べ、アンプやDACによる音の違いは小さい。
そのため、その違いを結構抽象的な表現で書くことになる。
抽象的な表現の最たるものが「良い音」だ。
例えば、LXU-OT2の付録の雑誌(笑)のようなオーディオ雑誌を見ると、オーディオ評論家の書いた製品評がいろいろ読めるが、正直参考になるものは少ない。
様々に工夫を凝らした言語表現はさすがプロだが、読む側としては製品の実体と結びつけられず、単に物欲をかきたてられているように感じる。
例えるならば酒など嗜好品の広告に似ていて、詩的表現で雰囲気だけが伝わってくるが、比較検討には役立てにくい。
それでも、先日紹介したAV REVIEW誌のスピーカーレビューのように、複数の機器を一気に同一の基準でレビューしたなら、少なくとも相対的な違いは分かる。
しかし、機器単体のレビューだと、ほとんどグルメ紀行と変わらない。
「まったりとした」ってどんな味なんだろう、よくわからないけど美味しいんだろうな…と勝手に納得せざるをえなくなってしまう。
デジカメのレビューはサンプル画像があるから、最終的にはサンプル画像で判断すればよい。
しかしオーディオ機器はサンプルを載せられないので、レビューをいくら読んでも、結局自分の耳で試聴しなければ本当のところは分からない。
CPUのようにベンチマークで比較できれば良いが、オーディオ機器のベンチマークというと、歪み率とかS/N比のようなカタログスペックになってしまう。
これらが主観的な「良い音」と相関していれば良いのだが、残念ながらそうでもない。
そもそもPCオーディオ向けアンプ選び(4)で書いたように、歪みが味付けとして働いてしまう部分もあるようだ。またノイズも、微かに乗っていると「良い音」と感じられてしまう、という話も聞く。
アンプの役割は入力を単に虫眼鏡のように拡大して出力すること、DACの役割は単にサンプリングデータを原信号に戻すこと、が本来の姿であるはずなのだが、微小信号の拡大、サンプリングしたデータを連続値に戻す、という処理は「補間」を伴っているはずで、その補間の良し悪しが音の良し悪しに影響する可能性もある。
そういうわけで「良い音」の定義というのは世の中には無い。
以下に書くのは、あくまで私自身にとっての「良い音」の話だ。
私が聴いた音を、このブログの読者は聴くことができないので、私が書くものもグルメ紀行だ。
ただ、特定の機器とは切り離して、私がどんな音を良い音に感じるかをここでまとめておき、機器の評価はそれを前提にしようと思う。
全く個人的な好みではあるけれど、私の評価が参考になるかどうかの判断の助けになるのではないかと思う。
私が音を評価するときに、まず気にするのは女性ボーカルだ。
人の声は、おそらく人間が最も敏感に聴き取れる音だと思う。
音が良いと、まず女性ボーカルに、ある「色」が付く。
というか、付いているように聴こえる。
特に、音を伸ばしているところで顕著になる。
どんな色かというと、自分の感覚ではオレンジ色だ。
暖かみを備えた、ある種の輝き、明るさで、艶というのにも似ている。
これは結構はっきりしていて、量販店などで良いスピーカーを良い装置で鳴らしているのを聴くと大抵この色が感じられる。
この色が分かりやすい声質というのもある。
少しハスキーがかった声質の場合が多いのだが、録音の状態にもよる。
自分は手持ちのCDの中で吉田美和と竹内まりやを使うことが多い。
あとエレクトロニカでDeep ForestのMarta’s Song。




また、ボーカルではなく、アナログシンセのレゾナンスを上げてローパスフィルターを通した音でも同じ色が感じ取れる。
たとえば、Leftfiedの「Melt」で冒頭からディレイで左右に振っている高音がそれだ。

この「色」がどれくらい感じられるかが、私に取っての良い音の一つの基準だ。
もう一つは、低音の鳴り方。
私はシンセベースが好きなので、シンセベースの鳴り方を気にする。
上に挙げたMarta’s SongやMelt、あとYMOの「Silence of Time」などをテストに使うことが多い。
量感よりも、低音がくっきりするかどうかが気になる。
実は、低音そのものよりも倍音成分のほうが大事で、低音だけブーストしてバランスが崩れていると印象が悪くなる。

三つ目はリアリティ。
これもボーカルが大事だが、音場感とか空気感とか言うものに近いかもしれない。
もっとも、私はオーディオ評論で言うところの音場感とか空気感とかいうものが、実際のところどんなものなのか分からないが。
以前も紹介した、この動画。
いい音だと、小さな部屋で、すぐ傍で歌っているのを聴いているような感じがするものだ。

あと、ジャズの名盤からBill EvansのSome Other Timeをかけてみることが多い。
これも臨場感みたいなものに注意して聴いている。

あとは、全体的なバランス。
お気に入りのPat Metheny Group「Follow Me」を聴いて、耳が痛くならないことが重要だ。

最後に、これは結果論なのだが、良い音を聞いているとだんだん眠くなってくる。
ぼーっとしてくる。
癒されているような感じ。
これは音のどの成分が影響しているのか分からない。
判断基準は音ではなく、眠くなってくるかどうか。
「眠い」というと普通は悪い意味(キレがないとか解像が甘いとか)で使うことが多いが、良い音の場合は音が眠いのではなく自分が眠くなってくる。
なんでこれが良い音なのかというと、結局ずっと聴いていられるか否かだと思う。
眠くならない音は、逆に長く聴いていられず、他の曲、他の装置に手が出てしまう。

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