DFAMはVCO1の三角波からVCO2へFM変調をかけることができる。ほぼその機能だけを使って作られているのが、プリセット「Tubular Bells」だ。
この録音は少しだけディレイをかけている。
ディレイをかけていないものはこちら。
FM変調というのは、キャリアの周波数をモジュレータ信号によって変化させる変調方法だ。FMラジオの「FM」もこれと同じ。(ちなみに、いわゆる「FM音源」は、キャリアの「位相」(=1波長分の中での現在位置)をモジュレータによって変化させる方式で、FM変調というより「位相変調」というほうが実際には正しい。)
FM変調も位相変調も得られる効果は似たようなものだが、結果としてどんな波形になるか想像しにくかもしれない。雑な説明をすると、ジグザグ運転をイメージするといい。
下の図で、グレーの線を道路だと思って、その上を車が走っていくと考える。そして、運転者はハンドルを左右に繰り返し切る。赤い線はハンドルの角度を表している。そうすると、車の軌跡はまっすぐではなく、蛇行した経路になる。
この、蛇行した経路がFM変調の「結果」の波形だ。グレーの線をキャリア、赤い線をモジュレータと呼ぶ。モジュレータの波の大きさを大きくすると、蛇行がより大きくなる(変調の度合いが高まり、車はより蛇行するようになる)。モジュレータの周波数を高くすると、より急ハンドルになり蛇行の角度と頻度が高まる。
車が蛇行して、道路を右から左に寄せていくとき、出力の波形には元の波形よりも高い周波数成分が含まれる。これが、FM変調が金属的な音を生み出す秘密になっている。
ところで、DX7のようなデジタル方式のFM音源は、モジュレータもキャリアもサイン波を使うのが基本だが、DFAMのFM変調では、
・モジュレータはVCO1の三角波
・キャリアはVCO2(方形波または三角波)
に固定されている。(VCO1の波形を方形波に切り替えても、モジュレータの波形は三角波のままだ。)
Tubular Bellsのパッチは以下の図のようになっている。
出力されるのはVCO2の音のみで、VCO1やノイズの音量はゼロになっている。
この音色は、シーケンサーのピッチがモジュレータすなわちVCO1の周波数を決めるように作られている。
シーケンサーのピッチの適用先はパネル上のスイッチで選択できるのだが、「VCO1とVCO2の両方」「なし」「VCO2だけ」のいずれかしか選べない。このパッチでは「VCO1だけ」にピッチを適用したいので、パネル上のスイッチでは「なし」を選択したうえで、パッチケーブルでシーケンサーのピッチ信号をVCO1のCVに入力している(赤線の部分)。
FM変調の度合い(モジュレータ信号の強さ)は最大となっている。そのため、シーケンサーのピッチが少し変化しただけで結果の音色は大幅に変化する。以下の音声は、ピッチをいじって音色を変化させてみた例だ。
あまりクリーンな音色ではないことがほとんどだ。モジュレータとキャリアの周波数の比が簡単な整数比だとクリーンな音になるのだが、DFAMではピッチは自由に変えられるので、通常はクリーンな音にはならない。また、ピッチが高いからといって、必ずしも常に聴感上高い音が出るとは限らない。
このパッチはFM Amountが最大なので、クリーンな音を出すにはかなり微妙な調整が必要だ。ツマミの位置のわずかな違いで、全く異なる音色・音程が出てくる。
以下のビデオも同じパッチを鳴らしているが、音程も音色も冒頭のサンプルとは全然違うのがわかるだろう。冒頭のサンプルは、なるべく各音がクリーンになるように、シーケンスの各音のピッチの設定を微調整している。
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