TASCAM VL-S3は10年くらい前(2015年9月)に発売された、アンプ内蔵のいわゆるパワードスピーカー。3インチウーハー+0.5インチツイーターの2Wayで、かなりコンパクト(奥行13.8 x 幅11 x 高さ17cm )な割には低音も出るしそこそこ音が良いという評判だった。
実はここ最近、3年前に買ったオーテクのAT-SP95の代わりとなるいいコンパクトスピーカーは無いかなと思っていた。AT-SP95だと、Netflixで映画を見たりしていると、やはりちょっと迫力不足を感じるところがある。
オーディオ用のスピーカーは別にあるので、主目的はYouTubeやNetflixその他の視聴。そこまで高音質である必要はなく、AT-SP95より良い音なら、あとはむしろデスクトップスピーカーとしてのサイズ重視(高さ20cmまで)と思っていた。そこへ先日たまたま、オークションでVL-S3の安価美品な中古を発見し、3000円弱で購入した。
このサイズだから低音は・・・と思っていたが、鳴らしてみると割とよくできている。出せる範囲の低音をボリュームアップして、低音が出ているように聞かせている。そういう風に調整してある、ということなのだが、調整の仕方がうまい。普通のPCスピーカーを使っていた人がこのスピーカーを使ったら、低音以外の音量が同じなのに低音だけボリュームアップしているので、感激するだろう。
もちろん、本当に低い方の音が出ているわけではなくて、たとえばよく引き合いに出すこの曲、この低音が出せるかというと、苦しい。
あと、同じBoards of Canadaのこれとかね。30秒過ぎからの鼓動のようなベース、ヘッドホンなら必ず聴けるがスピーカーでこれを出すのはそれなりものが必要だ。
例によって簡易的に(Yeti Blueで)周波数を測定してみたら、こんな感じだった。
50Hz以下は急激に落ち込んでいる代わりに、その上の帯域はボリューミー。逆に高音は、そんなに出ていない感じに見える。が、聴いていてこもりを感じるとかいったことは無かった。それに、このサイズで60Hzあたりまでこれだけ出ているというのは優秀だと思う。
というわけで、サイズや価格を考えると、よくできたスピーカーだと思う。現行製品はBluetoothが付いて、型番はVL-S3BTとなっている。価格は現在15,000円くらいだが、これはこれで十分お値打ち感はあるかなと思う。
さて、今回購入したVL-S3、中古でお値段3000円(+送料)だったわけだが、新品は最安値で8000円台くらいだったと思うので、美品3000円ならお買い得といえばお買い得。だが、実は安かった理由があって、付属ACアダプタやケーブルが無し。ケーブルは、ただのスピーカーケーブルとRCA/PHONEケーブルなのでどうでもいいけど、ACアダプタは純正品は別売りが無く、同仕様(15V/2.4A)のまともなものを買うと2千円くらいする。
このACアダプタの15V/2.4Aという仕様だが、VL-S3本体の消費電力は6.2Wとなっていて、それだけであれば15Vなら0.5Aでもいいくらいだ。実際、手持ちの15V1Aのアダプタ(DSI Mopho Keyboard用)で、問題なく動作することは確認できた。
製品としての出力は最大14W+14Wとなっているので、その最大出力に合わせると15V/2.4Aは必要になる。自分はそんな爆音は必要ないので(通常2~3Wで十分)、15V/1Aの小さなACアダプタでも(音量を上げない前提なら)使えなくはない。
だが実は、購入にあたっては別のアイデアがあった。それは「USB-PDトリガーケーブルをACアダプタの代わりに使ってみよう」というものだ。USB-PDトリガーケーブルというのは、見かけは片側がUSB-C、片側がACアダプタの端子(よくあるEIAJ形式)になっていて、USB-Cから9Vや15Vの電力を取り出せる、というものだ。
今回購入したUSB-PDトリガーケーブルはこんな感じ。片側はVL-S3のACアダプタをつなぐ電源ポートに挿してあって、反対側はUSB-Cだ。
これは、昔よくあった「USBの供給する5Vの電圧を昇圧するケーブル」ではない。そのやり方では、VL-S3が要求する最低7~8Wの電力も供給できない。
最近スマホ用充電アダプタなどで使われているUSB-PD(USB Power Delivery)規格では、5V以外に、9/12/15/20Vの電圧を供給することができる。このとき、電圧の設定はデバイス間のUSB CC(Configuration Channel)という、データ通信とは別の通信チャネルで行っている。
USB-PDトリガーケーブルは、特定の電圧を要求するようなUSB CC通信プロトコルを話すチップを埋め込んだUSBケーブルだ。つまり、自分の使いたい電圧に合わせたUSB-PDトリガーケーブルを使うと、指定した電圧をUSB-PDから取り出せるので、ACアダプタ代わりにするような使い方が可能になる。USB-PD対応ACアダプタから見ると、USB-PDトリガーケーブルは「特定の電圧を必要とするデバイス」に見えるので、ACアダプタ側がその電圧で電力を供給するのだ。
USB-PDは規格としては15Vのとき3A取り出せるので、VL-S3の駆動は問題ないはずだ。つまり、考えていたアイデアは「専用のACアダプタを買わなくても、15VのUSB-PDトリガケーブルでACアダプタの代わりにできるのではないか?」ということだ。



USB-PDトリガーケーブルは、今はそんなに安くはなくて、1500円前後から。だが新しい技術は使ってみたい、ということで、今回はこちらの製品を購入した。ちなみに、USB-PDは電流容量が3Aと5Aがあり、5Aの場合はトリガーケーブルにeMarkerというチップの搭載が必須になっている。とはいえ現状、チップの有無で価格は大して変わらないので、eMarker搭載のものを選んでいいのではと思う。
もちろん電力供給側には、15V/2.4Aの供給能力が必要になる。最近のUSB-PD対応ACアダプタは、GaN(ガリウムナイトライド)というパワー半導体のおかげで、大出力でも小型になってきている。まだ若干価格は高めだが、以前に比べたらだいぶ手頃にな価格になってきており、コンパクトなのでお薦めだ。自分はノートPCの電源アダプタにもデルタ電子の65W出力の製品を使用している。
今回は、手持ちのものを流用するのではなく、エレコムの35W品を購入した。中国メーカーのものもあるが、大電流なのでやっぱり国内メーカーの設計・検査を経ているものにした。エレコムの製品はバリエーションも多く、比較的安価だ。今回は35W(15V時は2.33A)で1520円だった。
もちろんGaNを使っていなくても、いわゆるモバイルバッテリやUSB充電器で、USB-PD対応となっているものは電力供給ができる。ただし、出力ワット数は製品による。大別すると、現状では65Wか45Wか30Wかそれ以外か、というところ。基本、大電力になればサイズが大きく、価格も高くなる。選定基準としては、ノートPCの電源として使うなら65W、スマホの充電用なら45Wか、30Wでもよい。

試した結果だが、USB-PDトリガケーブル+VL-S3は問題なく動作している。GaNアダプタの価格まで含めたら普通のACアダプタを使う方が安いが、ここは実験がうまくいったので良しとする。
USB-PDトリガーケーブルをうまく使えば、「ACテーブルタップにACアダプタがたくさん挿してあって塊状になっている」という、ありがちな状況から脱却できる可能性があると思うので、個人的には結構注目している。ネックは、USB-PD電源の価格かなぁ。
さて、以下はオマケの話。
PCからVL-S3にUSB-PDで給電できれば、PCオンオフに連動してスピーカーのオンオフもできるようになって大変便利だ。・・・と考えたのだが、PC側が対応できるかというと、現時点では難しそうだ。
まず、最近はほとんどのPCでUSB3.1のポートはあると思うが、USB3.1 = USB-Cではない。Type A/BのUSB3は普通にある。USB-PDはUSB-CCを使うので、USB-Cコネクタが必須だ。
次に、USB-Cコネクタ = USB-PD対応 ではない。USB-PDはUSB-Cコネクタが必須だが、逆にUSB-CコネクタでUSB-PD非対応、は規格の範囲内だ。USB-C規格としては、電圧は5Vのみ、電流は0.5/1.5/3Aを供給できる。この電流容量は、USB-PDと同じくUSB-CCでやりとりされるが、電圧の変更(Power Negotiation)はUSB-PDの規格であり、USB-Cの範疇ではない。

そして、「USB-PD対応」とは、USB-CコネクタでUSB-PDのネゴシエーションができるということであって、必ずしも15Vや20Vといった電圧を供給できるということを意味しない。
USBの最新の規格であるUSB4では、コネクタはUSB-Cのみ、USB-PD必須となっているが、供給電力については「最低7.5W」となっており、「USB-PDを話す」ことは求められているが大電力の供給は必須ではない。

試せる範囲のPCでいろいろ試してみたが、現在PCに搭載されているUSB-Cポートは、基本的には今回必要とするような大電力の供給は、ほぼ対応していないと考えた方がよさそうだ。
例えば最近のノートPCだと、USB-Cで外付けで多機能のドックを接続できるものがよくあるが、この場合はUSB-CポートがUSB-PD機能を持っている場合が多い。こういったノートPCは、PCへの給電自体もUSB-Cで行うようになっていて、そのすぐ横にUSB-PD付きUSB-Cポートがもう1つある、という構成が定番のようだ。
だが、このようなUSB-PD付きUSB-Cポートでも、5Vが供給できれば大抵の場合は十分なので、今回のような15Vの出力に対応していないようだ。
一方、デスクトップ機ではUSB-PDで大電力供給するマザーボードはまだ多くなさそうだ。まだ数が少ないが、USB4のポートを持つ最新のマザーボードでは、少なくともプロトコルとしてのUSB-PDは話せるはず。しかし、実際に供給できる電圧や電力はよくわからない。
マザーボードではなく、PCIeバスに増設するカードから電力供給できるような拡張カードも、いくつか出ているようだ。だが、マザーボード側も条件を満たしている必要があり、汎用の拡張カードではない。チップセットも比較的最近のものが必要なようだ。いずれにしても、マザーも拡張カードも結構高い(1.5万~3万)ので、当面はマイナーな位置づけになりそうな気がする。


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