DTMからの録音環境(3)リニアPCMレコーダー

前回からの続き。
DTM用の録音デバイスとして、MTRの多重録音をそれほど重視しないなら、小型のリニアPCMレコーダーが候補になってくる。
「リニアPCMレコーダー」というのもやや古い呼び方かもしれない。
前回書いたように、ICレコーダーもリニアPCMで録音できるものが増えているからだ。
「フィールドレコーダー」とか「ハンディレコーダー」とも呼ばれているようだ。
1万円前後で買えるものもある。

リニアPCMレコーダーは、一般的なICレコーダーと較べると
(1)立派な(高音質、低ノイズ)マイクがついている
(2)基本的にデカい。その代わり操作しやすい
(3)測定器のようなゴツいデザイン
(4)24bit/96KHz、非圧縮での記録は当たり前
(5)会議などではなく楽器や自然音などの収録を想定している
(6)三脚に取り付けられるよう三脚穴がついている
といった特徴がある。
本質的にはICレコーダーだが音質が違う、というわけだ。
ヨドバシカメラやビックカメラなどに行くと、ICレコーダーの隣に専門コーナーが設けられている。
ボリュームゾーンの価格帯は、1.5万円~数万円といったあたりで、ICレコーダーよりワンランク上になる。
メーカーも、ZOOMとTEAC(TASCAM)という音響機器メーカー2社が大きな存在を占めており、ICレコーダーとはちょっと毛色が違う。
現在の人気機種は、TASCAMのDR-05 VER2-J、DR-07 MK2J、DR-40 VER2-J、ZOOMのH2n、H4nといったところのようだ。
1万5千円前後で買えるDR-05 V2-J、DR-07 mkII-J、H2nあたりが入門機という感じだ。
これらの機種はリニアPCMレコーダーの中では比較的小型であることも影響しているのかもしれない。



大きさは、「テレビのリモコンくらい」と言えばなんとなく分かるだろうか。
厚みはもっとある。
これらの機器は、マイク自体が大型で、かつ外部マイク接続にXLR端子やTRS端子といった大きなコネクタを使えるようにしているので、小さくするのは物理的に無理なのだ。
マイクは交差しているタイプ(XY)と開いているタイプ(AB)の2つが多く、前者はどちらかというと音を狙って録音するのに向き、後者はたくさんの音の集合を録音するのに向いている。
他にMS方式というのもあり、録音後の後処理でステレオ感を増減することができる。
ステレオ録音
上に挙げた機種では、DR-05はAB専用、DR07はAB/XY両対応、H2nはXY/MS両対応となっている。
2チャンネルより多いトラックを同時または多重録音できるリニアPCMレコーダーは、MTR代わりにもなる。
ZOOMのH4nと、TASCAM DR-40 VER2-J(とその後継のDR-44WL)が4ch MTRとして使える機能がある。
つまり、内部的に4つトラックを持っていて、マイクや外部入力をトラックに割り当ててそこへ録音することができる。
ただ、大きさは上に挙げたものより、さらに一回り大きいし重い。
ちょっと、屋外で使うとスタンガンみたいで、人目を引きそうな存在感だ。


アマチュアの音楽用機材としてのZOOMのH4nは、ZOOMらしく使い切れないほど機能がてんこ盛りになっていて、音質も良く売れ筋のようだ。
MTRにおけるR8の立ち位置と似ているかもしれない。
驚いたのは、そのH4nの発売が2009年ということで、発売から8年目になる現在も売れ筋なのだ。
どうも、これらのレコーダーはマイクやアンプなどアナログ部分も多く、技術的には2010年ごろに必要な水準に概ね到達したようで、その頃発売された製品が現在もメインストリームになっている。
後継機というわけではないが、上位機種として6チャンネル対応のH6も発売されている。
マイクを取り外して外部入力端子に交換することもできる。
ただ、これはさらにデカい。性能は良いらしいが・・・。


こちらに各社のリニアPCMレコーダーの比較的最近の紹介記事がある。
The Top 10 Best Portable Audio Recorders – The Wire Realm
他には、一眼レフカメラで映像を撮影する際、組み合わせて利用することを想定した製品がTASCAMから2種類出ている。
DR-60Dはマイクを内蔵していない4トラックのレコーダー。
MTRとミキサーの機能がある。

DR-70Dは内蔵マイクを持ち、同じく4トラックMTRとミキサーの機能がある。

ただ、これら2機種は、やはり一眼レフとともに三脚に固定する前提で設計されているようだ。
ポータブルなレコーダーというのとは少々違う。
現在の新しい流れはビデオ機能の取り込みで、SONYやZOOMが「音楽を録画する高音質ビデオカメラ」という共通のコンセプトで、面白い製品を出している。




広角固定焦点レンズのHDビデオカメラと、レコーダーの録音機能を組み合わせたもので、ライブの撮影やYouTubeへの投稿などの用途を想定したものらしい。
値段も、レコーダー+1万円くらいと、それほど高くはないが、ビデオ自体の画質はあまり高くない。
バッテリーの持ち時間も、録音機材としてはやや短い。
ガジェットとしてはH4nやQ4nに非常に心惹かれるものがあるが、さて自分にとって必要なものは、と考えると、やっぱりちょっと違う。
Q4nは映像が撮れて面白いが、日常的には音声でいい気がする。
H4nは実際に目にするとかなり大きく、もっと小型で起動時間も短いものが良い。
H4nのレビューを見ると、起動に20秒もかかるらしい。
それではPCを立ち上げるのと、実は大して変わらない。
量販店の店頭ではH4nは試せなかった(電池切れ)が、TASCAMやZOOMの製品はどれも起動までけっこう時間がかかるようだ。
店頭で見て、「これは」と思ったのは、SONYのPCM-M10とRolandのR-05だった。
どちらも小さく、厚みもそれほどではない。


特にPCM-M10は、海外サイトのレビューでいくつか高い評価を見かけた。
小さく、音は良く、起動も割と早く、オールインワンで電池持ちも良い。
内蔵マイクは無指向型で、場の雰囲気を収録するのに向き、コンサートを録音するような、特定の方向の音を収録するのには向かないが、自分の用途とはあまり関係ない。
自分の現在のニーズに最もマッチするのはPCM-M10だろう、ということで、これを購入することにした。
しかもこの機種、実は2009年の発売で、後継機もなく、今まさに流通在庫のみとなって消え去りつつあるところだ。
入手するなら今しかない・・・という点にも背中を押された。

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